腱摩擦音

腱摩擦音(palpable tendon friction rub)は強皮症の病型分類、予後の予測に有用な身体所見です。腱摩擦音は関節を動かした時に周辺で感じる組織が擦れ合う感覚(英語ではモsqueakingモやモcoarse crackingモなどと表現されます)のことで、1887年にドイツ人医師Westphalにより初めて記載されました。腱摩擦音と和訳されますが、実際には検者の手掌で感じる皮膚直下で組織が擦れ合う感覚であり、音として聴取されることはまれです。関節を動かした際に関節周囲の線維性に肥厚した腱が周囲の筋膜や筋支帯などとこすれる現象と理解されています。腱摩擦音は全身の関節周囲で検出されますが、頻度の高い部位は手指、手、肘、膝、足関節です。疼痛を伴う場合がありますが、通常は痛みはありません。患者が関節を動かす際に引っかかる感じがする、ゴリゴリ感があると訴えることがあります。腱摩擦音は発症早期に検出されやすく、経過とともに消失する傾向があります。注意深く診察すれば、発症1年以内のdiffuse型強皮症患者の約半数で検出されると欧米で報告されています。

腱摩擦音は強皮症に特徴的な臨床症状のひとつとして認識されていましたが、その臨床的意義については明らかでありませんでした。アメリカピッツバーグ大学のRodnan、Medsgerらは1960年代から腱摩擦音はdiffuse型強皮症や予後不良と関連し、臨床的に有用な診察所見であると唱えてきました。実際に、彼らは1,300例以上の強皮症患者を用いた検討を行い、腱摩擦音はdiffuse型もしくは将来diffuse型に進展する強皮症患者に特異的に検出されることを実証しました。また、腱摩擦音はdiffuse型強皮症の中でも皮膚硬化が高度で(スキンスコアが高い)、手指の屈曲拘縮が強く、心、腎病変を高率に持ち、予後が悪い病型と関連することも明らかにしました。多変量解析では、初診時の腱摩擦音の検出は将来のdiffuse型への移行、強皮症関連死を予測するよい指標であることも示しています。したがって、腱摩擦音は強皮症患者の病型分類と予後の予測に有用な診察所見であり、特に初診時や発病早期に調べることが重要と考えられます。この点では、経時的変化により疾患活動性の評価や治療効果の判定に用いられるスキンスコアやFinger Flexionなどの他の指標とは異なります。ただし、定期的に調べることも必要で、腱摩擦音が消失または検出されない患者に新たに出現する場合がまれにあります。この際には皮膚硬化や内臓病変が進行する場合があり、注意する必要があります。

腱摩擦音は特別な装置を必要としない簡単な身体所見で、安価で、どこでも調べることができます。強皮症における線維化病変は不可逆性のため、最近は強皮症の病変が進行する前の発症早期に自然経過を変えうる疾患修飾薬の使用が提唱されています。疾患修飾薬の治療適応の決定には将来の皮膚硬化や内臓病変の進行を予測する指標が必要であり、腱摩擦音はそれら数少ない指標のひとつである点も注目されています。

腱摩擦音の診察の仕方

写真に示すように、患者の関節周囲に検者が手掌をあて、関節可動域の範囲をできるだけ大きく動かすように指示します。熟練した検者は腱摩擦音を高率に検出できますが、これは関節を大きく動かすように患者に上手に指示できるためです。関節を他動的に動かすと腱摩擦音を見逃すことが多く、感度が低下します。また、運動を繰り返していると腱摩擦音が弱くなり、消失する場合があります。したがって、最初のおよそ5回までの運動で患者に大きく関節を動してもらうことが一番大きなポイントになります。

個々の部位における診察上のポイントをまとめます。

  1. 手指−手指の腱摩擦音は主に手背と手掌で検出されます。患者の手をはさむように、手背と手掌に検者の左右の手掌をあて、「手を握る、開く」を繰り返すよう指示します。
  2. 手−写真に示すように手関節の近位側に検者の手掌をはさむようにあて、患者に「手首を上げる、下げる」を繰り返すよう指示します。
  3. 肘−肘関節の外側(肘頭の周囲)に手掌をあて、肘関節の屈曲と伸展を指示します。
  4. 膝−膝関節ではおもに膝蓋骨の周囲で腱摩擦音が検出されます。検者は手掌を膝蓋骨の周囲を動かしながら、患者に座位または仰臥医で膝の屈曲と伸展を指示します。
  5. 足−足関節では、足関節の近位部から足背部までの広い範囲で検出されます。患者には「足首を上げる、下げる」を繰り返すことを指示します。

参考文献

Steen VD, Medsger TA Jr: The palpable tendon friction rub: an important physical examination finding in patients with systemic sclerosis. Arthritis Rheum 1997; 40: 1146-1151.